歯科の保険治療と自由診療(自費診療)の違いは?現役の歯科医師が自由診療のメリット・デメリットを解説
- 山浦 泰明

- 10月7日
- 読了時間: 14分
更新日:11月20日

歯科医院で治療を受ける際、「保険診療と自由診療、どちらを選べばいいの?」と悩まれる方は少なくありません。
費用面だけでなく、治療内容や使用できる材料、治療期間など、実は保険診療と自由診療には多くの違いがあります。
本記事では、山梨県甲府市で自由診療を中心に行っている山浦歯科医院の院長が、現役の歯科医師の視点から、保険診療と自由診療の違い、それぞれのメリット・デメリット、そして主な治療における具体的な違いについて詳しく解説します。
保険診療と自由診療の基本的な違い
まずは歯科における保険診療と自由診療の基本的な違いから解説します。
保険診療とは
保険診療とは、国民健康保険や社会保険などの公的医療保険が適用される治療のことです。
日本では「国民皆保険制度」により、国民全員が何らかの医療保険に加入しており、医療費の一部(通常1〜3割)を自己負担することで治療を受けられます。
残りの費用は国や自治体が負担する仕組みになっています。
歯科での保険診療の目的は、「お口の機能を回復すること」です。
具体的には、噛めるようにする、痛みを取る、といった基本的な機能の回復を目指します。
そのため、使用できる材料や治療方法が国によって定められており、全国どこの歯科医院でも基本的に同じ治療が同じ費用で受けられます。
自由診療(自費診療)とは?
自由診療は、保険外診療とも呼ばれ、公的医療保険が適用されない治療のことです。
治療費は全額自己負担となりますが、使用する材料や治療方法に制限がなく、より高度な技術や質の高い材料を選択できます。
自由診療では、機能回復だけでなく、見た目の美しさや長期的な予後、快適性なども追求できます。
各歯科医院が治療内容と費用を設定できるため、医院によって費用が異なる点も特徴です。
保険診療が「必要最低限の機能回復」を目指すのに対し、自由診療は「より良い状態(健康)を長期的に維持する」を目指すものだとご理解ください。
なぜ保険診療中心の歯医者と自由診療中心の歯医者があるのか
しかし実際のところ、歯科医院によって保険診療を中心に行っているところと、自由診療を中心に行っているところがあります。
この違いが生まれるのは、主に以下の3つの理由からです。
診療報酬の課題
治療に対する考え方の違い
使用できる材料と設備の制約
1.診療報酬の課題
保険診療では、一つひとつの治療行為に対する診療報酬(歯科医院が受け取る金額)が国によって細かく定められています。
この診療報酬、国際的に見ると日本の診療報酬は非常に低い水準にあります。
例えば、日本の歯科診療単価はアメリカの約10分の1、スウェーデンの約5分の1と言われています。
さらに、保険診療では治療にかける時間の長さに関係なく、同じ診療報酬となります。
3分間の診療でも1時間の診療でも、歯科医院が受け取る金額は同じなため、保険診療を中心に行う場合、経営を成り立たせるためにどうしても多くの患者さんを短時間で診療する必要があります。
2.治療に対する考え方の違い
保険診療中心の歯科医院は、「多くの患者さんにできるだけ費用の負担が少ない治療を提供する」ことを目的としています。
そのため、主に「痛みを取る」「最低限噛めるようにする」といった、応急的・機能的な回復を重視する治療が中心になります。(長期的な予後や見た目の美しさまでは重視されないこともあります)
一方、自由診療中心の歯科医院は、「一人ひとりの症状や希望に合わせた、質の高いオーダーメイド治療を行い、健康を長く維持する」ことを重視しています。
どちらが良い悪いということではなく、それぞれに意義があります。
保険診療は経済的な負担が少なく、誰でも気軽に受診できる利点があり、自由診療は信頼性の高いエビデンスをもとにより精密な治療を行うことで健康を取り戻し、その健康を長持ちできる治療を求める方に適しています。
患者さんのニーズや価値観によって、選ぶべき歯科医院も変わってくるのです。

3.使用できる材料と設備の制約
保険診療では、国が認可した材料や治療方法しか使用できません。
また、保険診療では治療ごとに国が定めた「診療報酬(歯科医院が受け取る金額)」があり、自由に料金を設定することはできません。
そのため、経営を維持するには限られた報酬の中でやりくりする必要があり、結果としてできるだけ安価な材料や方法で治療を行うケースが多くなります。(販売価格が決まっているため、原価を抑えることで利益を確保する仕組みです)
海外では一般的に使われている優れた材料でも、日本の保険診療では使用できないことが多くあります。
それに対し自由診療では体に安全で、機能的・審美的に優れ長期的に維持できる最先端の質の高い材料を使用することができます。
また、高度な医療機器(歯科用CTやマイクロスコープなど)の使用についても、保険診療では制限があります。
自由診療中心の歯科医院では、これらの最新設備を導入し、より精密な診断と治療を行うことができます。
保険診療と自由診療のメリット・デメリット
保険診療 | 自由診療 | |
|---|---|---|
メリット | ・費用が安く抑えられる(公的保険適用) ・全国どこでも同じ治療内容 ・一定水準の治療が保証されている ・気軽に受診できる | ・最新の治療技術や質の高い材料が選べる ・見た目(審美性)に優れた治療が可能 ・治療の選択肢が広い ・時間をかけた治療ができる ・再治療のリスクが低い ・長期安定的が高い |
デメリット | ・使用できる材料や技術が限られている ・見た目に限界がある(金属使用が多い) ・治療法の選択肢が限られる ・治療時間が限られる ・再治療のリスクがある | ・歯科医院によって料金設定が異なる ・保険が効かないため経済的負担が大きい |
選ぶべき人 | ・費用を抑えたい ・基本的な機能回復で十分 ・気軽に通院したい | ・歯を長持ちさせたい方 ・見た目の美しさも重視する方 ・再治療のリスクを減らしたい方 ・質の高い治療を受けたい方 |
保険診療と自由診療とには、上記の通りそれぞれメリット・デメリットがあります。
簡単に言うと
保険診療=「必要最低限の機能を回復する治療」
自由診療=「健康を取り戻し長期的に維持し、見た目や快適さも追求できる治療」
という位置づけになりますが、選ぶ際はご自身のニーズや予算に合わせて、適切な選択をしていただくことが大切です。
各治療における保険診療と自由診療の違い
では実際に各治療においてどのような違いがあるのでしょうか。
ここからは具体的に、治療内容でどのような違いが出てくるのかを解説します。
歯周治療(歯周病治療)
保険診療 | 自由診療 | |
|---|---|---|
内容 | 歯石除去、SRP(歯周ポケット内の清掃)、歯周外科の一部 | 高精度なデブライドメント、最新機器を用いたレーザー治療、再生療法(エムドゲインなど再生材料の使用)、高精度なメンテナンス |
材料・方法 | 基本的に標準的な器具・薬剤 | 先進技術を応用、歯周組織の再生を促がす材料の使用など |
費用 | 健康保険適用で安価 | 自費のため高額(数万円~数十万円) |
歯周病は日本人の約8割が罹患していると言われる国民病です。
それは同時に治療が難しく成功しないということでもあります。
治療方法には保険診療と自由診療で大きな違いがあります
保険診療の歯周治療では、歯科衛生士による歯石除去やブラッシング指導など、基本的な治療が行われます。
一回の治療時間が短く、段階的に治療を進める必要があるため、通院回数が多くなります。
保険診療での歯周病治療は、歯科衛生士による限られた時間内での処置が中心となるため、どうしても保険の枠組みに沿った「最低限のケア」にとどまりやすく、結果として歯周病の進行を完全に止めることが難しいケースが多く見られます。
一方、自由診療では、専門的な知識と技術を持つ歯科医師が担当し、精密なデブライドメント(バイオフィルムや歯石の徹底除去)、さらには歯周組織再生療法などの高度な治療まで行うことができます。
そのため、単なる症状の改善にとどまらず、歯と歯ぐきの健康を根本から取り戻す治療が可能です。
また、マイクロスコープを使用した高精度な処置により、歯周ポケット深部の治療も低侵襲で処置することができ、高い確率で成功することができます。
根管治療(歯の神経の治療)
保険診療 | 自由診療 | |
|---|---|---|
内容 | 感染部分の除去、薬剤充填、根管充填 | マイクロスコープ・ラバーダムを用いた精密治療、MTAセメント使用 |
材料・方法 | 保険において標準的な器具や充填材(ただし現在の自費診療ではほぼ使用されていないものがほとんど) | 高性能器具、CT診断、ニッケルチタンファイル使用など |
成功率 | 約25~30% | 約90%以上 |
費用 | 保険適用で数千円~1万円程度 | 自費で5万~30万円程度/1歯 |
根管治療は、虫歯が深く進行して神経まで達した場合や、以前に神経を取った歯が再感染した場合に行う治療で、この治療の精度が歯の寿命を大きく左右します。
保険診療での根管治療は、基本的な器具と方法で行われます。
使用する器具はステンレス製のファイル(歯の神経を除去する細い器具)が一般的で、二次元のレントゲン写真を見ながら手探りで治療を進めるため、根管内に汚れや細菌を取り残すことが非常に多いです。
結果的に保険診療での根管治療の成功率は約30~50%程度と言われており、約7割の歯において再治療を必要とするというデータもあります。
保険診療では通院回数も多くなる傾向があり、治療後にも違和感が残ったままというケースもよくみられます。
自由診療では、以下のような設備と材料を使用でき、これらを組み合わせることで、自由診療での精密根管治療の成功率は、初回治療で約90%以上に達します。
歯科用CT:三次元的に根管の形状や病巣の位置を正確に把握
マイクロスコープ:20倍以上に拡大して根管内部を直接視認しながら治療
ニッケルチタンファイル:柔軟性が高く、複雑な形状の根管にも対応できる器具
ラバーダム:治療する歯だけを隔離し、安全に高精度に治療を行う器具
MTAセメント:生体親和性が高く(組織を再生させる)、殺菌性があり、根管を緊密に封鎖できる材料
通院回数も2〜3回程度と少なく、一回の治療時間は60〜90分と長くなりますが、トータルでの治療期間は短縮されます。
セラミック修復(詰め物・被せ物)
保険診療 | 自由診療 | |
|---|---|---|
内容 | レジン、銀歯(金銀パラジウム合金)、一部CAD/CAM冠(条件付き保険適用) | オールセラミック、ジルコニア、E-maxなど |
審美性 | 色が目立ちやすい | 天然歯に近い色調と質感 |
耐久性 | 金属は強いが劣化や二次虫歯のリスクあり | 高強度で変色しにくい |
費用 | 保険適用で数千円 | 自費で5万~20万円程度/1歯 |
虫歯を削った後の詰め物や被せ物の選択は歯の寿命に大きく影響します。
保険診療で使用できる白い素材は、前歯から犬歯までの6本に限られています。
これらに使われるプラスチック(レジン)や、金属の表面をプラスチックで覆った素材は、時間の経過とともに変色や摩耗が起こりやすいという欠点があります。
また、奥歯の治療では基本的に金属(いわゆる銀歯)が使用されます。
さらに、保険診療では型取りに使われる材料が変形しやすく、詰め物や被せ物の精度が十分でない場合があったり、歯と修復物の間に小さな段差や隙間ができやすく、そこから細菌が侵入して虫歯が再発したり、歯周炎を引き起こしたりするリスクがあります。
一方、自由診療では、変形の少ない精密な材料で型取りを行うため、より正確に歯の形を再現することができます。
そのため、詰め物や被せ物の適合性が高く、長期的に安定した治療結果が得られます。
さらに、セラミックやジルコニアなどの高品質な素材を用いることで、強度・耐久性に優れ、見た目も自然で美しく、金属アレルギーの心配もありません。
特に適合性の高さは重要で、歯と詰め物の間に隙間がないことで、虫歯の再発リスクを大幅に減らすことができ、歯周組織の健康にも影響します。
また、自由診療では劣化の少ない高品質な接着剤を使用するため、詰め物や被せ物が長持ちします。
噛み合わせの治療
保険診療 | 自由診療 | |
|---|---|---|
内容 | 顎関節症治療の一部、咬合調整 | 精密検査、マウスピース治療、全顎的な咬合再構築 |
検査 | 基本的な検査 | CT・咬合分析機・デジタル機器を用いた詳細検査 |
対応範囲 | 症状改善が中心 | 機能性+審美性を追求した包括的治療 |
費用 | 保険適用で数千円~数万円 | 数十万~100万以上になる場合も |
噛み合わせは、お口全体の健康だけでなく、頭痛や肩こり、全身の不調にも関係する重要な要素です。
保険診療では、基本的な噛み合わせの調整は可能ですが、詳細な診査や全体的な噛み合わせの再構築は難しい場合があります。
使用できる材料の制限もあり、理想的な噛み合わせを実現することが困難なケースもあります。
自由診療では、顎の動きを記録する顎運動測定器や、筋肉の状態を調べる検査など、詳細な診査を行えます。
これらのデータをもとに、一人ひとりに最適な噛み合わせを設計し、精密な修復物で実現することが可能で、全体的な噛み合わせの再構築が必要な場合でも十分な時間をかけて段階的に治療を進められます。
インプラント治療
保険診療 | 自由診療 | |
|---|---|---|
内容 | 原則として保険適用外(例外的に外傷や腫瘍後の顎骨再建で一部適用) | チタン製インプラント埋入、人工歯装着 |
材料 | 保険では義歯(入れ歯)やブリッジが中心 | 高品質インプラント体、ジルコニア上部構造など |
費用 | 保険内ではほぼ適用不可 | 1本30万~70万円程度(医院により差あり) |
歯を失った場合の治療選択肢として、インプラントがあります。
保険診療で歯を失った場合に選択できるのは、入れ歯やブリッジとなります。
※腫瘍や外傷など特定の条件を満たす場合には、保険適用でインプラント治療を受けられることもあります。
インプラント治療は、基本的に保険適用外ですが、自由診療のため、ご自身の歯と同じような機能と、自然な見た目を実現できるインプラント治療を選択できます。
天然歯に近い噛み心地が得られ、隣の歯を削る必要もありません。
最新のデジタル技術を使用した精密な診断と治療計画、高品質なインプラント材料の使用により、長期的に安定した結果が期待できますが、費用は1本あたり30万円〜70万円程度と高額になります。

保険診療と自由診療の選択のポイント
保険診療と自由診療、どちらを選ぶべきか迷われる方も多いと思いますが、選ぶ際は以下のポイントを参考にしてみてください。
費用と価値のバランスを考える
自由診療は初期費用が高くなりますが、再治療のリスクが低く、長期的に見ると経済的な場合もあります。
例えば、保険診療で治療した歯が数年後に再治療が必要になり、最終的に抜歯に至れば、インプラントなどのより高額な治療が必要になることもあるため、「今の費用」だけでなく、「長期的な視点」で考えることも大切です。
優先順位を明確にする
予算はもちろん、治療に対して「何を重視するか」を明確にすると、どちらの診療が良いかもわかりやすくなります。
できるだけ費用を抑えたい → 保険診療が適している
見た目の美しさを重視したい → 自由診療が適している
歯を長持ちさせたい → 自由診療が適している
通院回数を減らしたい → 自由診療が適している(一回の治療時間は長い)
歯科医師とよく相談した上で決める
どちらの診療形態にも意義があり、患者さんの状況によって最適な選択は異なります。
治療内容、費用、期間について、十分な説明を受け、疑問点はすべて解消してから治療を始めることが重要です。
多くの歯科医院では、一部の治療は保険診療で、別の治療は自由診療でというように、組み合わせることもできます(混合診療には制限があります)。
ご自身の希望と予算に応じて、最適な治療計画を立てていきましょう。
医療費控除を利用するかどうか
自由診療の費用は医療費控除の対象となる場合があります。
年間で10万円以上の医療費を支払った場合、確定申告をすることで税金の一部が還付されますので、自由診療の場合は税金面でのメリットも考慮できます。
なおその際、治療費の領収書は大切に保管してください。
自由診療を検討中されている方は「山梨甲府市の山浦歯科医院」
保険診療と自由診療には、それぞれ異なる特徴とメリット・デメリットがあります。
保険診療は経済的な負担が少なく、基本的な機能回復を目的としている一方、自由診療は費用は高くなりますが、より質の高い材料と技術を用いた精密な治療で健康を取り戻し長期的に維持することが可能です。
治療の成功率や歯の寿命に大きな差が出るため、しっかり説明を受けたうえで治療を選択することが大切です。
ご自身の状況や価値観に合わせて、歯科医師とよく相談しながら、最適な治療方法を選択していただければと思います。
山梨県甲府市の山浦歯科医院では、自由診療を中心に、最新の設備と技術で世界基準の高精度の治療を提供しており、県内・県外問わず沢山の患者様にご来院いただいております。
一人ひとりのご希望やお口の状態に合わせた治療をご提案しておりますので、長期的な目線で治療をご希望の場合はお気軽にお問い合わせください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。個々の症状や治療については必ず歯科医師に相談し、適切な診断や治療を受けてください。



