歯茎にニキビのようなできものができて、「これって一体何だろう?」と不安になったことはありませんか?
見た目はニキビのようですが、実はこれは「サイナストラクト」と呼ばれる歯茎のトラブルの一つです。
サイナストラクトは痛みを感じないことも多くつい放置しがちですが、放置することで症状が悪化したり、他の口腔内トラブルに繋がることもあります。
この記事では、現役の歯科医師が歯茎にできるニキビ(サイナストラクト)の症状の原因や治療法、注意点について詳しく解説していきます。

歯茎のニキビみたいなモノの正体は「サイナストラクト」
歯茎にニキビのような白または赤っぽいこのできものの正体はサイナストラクト(sinus tract)と呼ばれるものです。
これは体内の炎症や感染によって形成される異常な管状の通路のことで、この通路は感染部位や膿瘍から歯肉表面までつながる道となり、歯茎の中に溜まった膿を体外に排出する排膿路としてできたものです。
サイナストラクトは一見ニキビのように見えますが、歯茎にできるのは口腔内のトラブルが原因で、特に虫歯や歯周病の悪化により歯根の先端や歯の周囲に細菌が感染し、炎症を起こして膿が溜まってしまった結果として発生します。
サイナストラクトは痛みを伴う場合とそうでない場合がありますが、基本的には口腔内の炎症が原因で起こるため、放置することはおすすめできません。
フィステルとサイナストラクトの違い
この症状は以前は「フィステル」とも呼ばれていましたが、歯科医学、特に歯内療法の分野においては、国際的に統一された用語である「サイナストラクト」と呼びます。
一般的には現在でも「フィステル」という名前で浸透しています。
口内炎とサイナストラクトの違い
サイナストラクトは口内炎と混同されることが多いですが、実際には全く異なるものです。
口内炎は、主に口腔内の粘膜が炎症を起こし、白っぽい潰瘍ができるもので、ストレスや栄養不足、免疫力の低下などが原因で発生し、食べたり飲んだりすると、その部位が沁みるような痛みを伴うことが多いです。
一方、サイナストラクトは、見た目は口内炎より小さく白くてニキビのような形状をしています。口内炎のように食べ物や飲み物の刺激で痛むことは少ないですが、サイナストラクトの付近の歯に噛むと違和感や痛みがある場合がよくみられます。
そのため、口内炎とは原因も治療法も異なります。
口内炎の場合は数日で自然治癒することが多いですが、サイナストラクトは原因が解消されない限り、自然に治ることは無く、病状は悪化していきます。
サイナストラクト(フィステル)ができる原因
歯茎にサイナストラクトができてしまう原因はさまざまです。
ここでは、サイナストラクトが発生する代表的な原因について4つの例を解説します。
1.虫歯が進行している
サイナストラクトの最も一般的な原因は、虫歯の進行です。
虫歯が酷くなり、歯の神経が入っている根管にまで達すると、細菌感染が歯の根管内に広がり、さらに感染が広がっていくと歯の先端部位(歯根先端)の歯槽骨内に炎症が発生します。
この炎症が進行すると、歯根先端部位の歯槽骨(歯を支えている骨)を溶かし膿が溜まるようになり、その膿を体外に排出するために、歯茎にサイナストラクトが形成されるのです。
初期の虫歯ではサイナストラクトはできませんが、重症化してしまった虫歯の場合にはサイナストラクトが発生することが多いです。
2.歯周病
歯周病もサイナストラクトの原因として知られています。
歯茎の炎症や歯槽骨の吸収が進行する歯周病は、歯茎の中に細菌が溜まりやすくなります。
歯周ポケットが深く、細菌が増殖すると炎症が強くなり、炎症の結果としてできる膿がサイナストラクトとして排出されることがあります。
特に歯周病が進行している場合には、歯茎の腫れや出血、口臭などの症状とともにサイナストラクトができやすくなります。
3.根管治療後の再感染
根管治療(歯の神経の治療)を受けた後に、歯根先端周囲の歯槽骨内に感染性の炎症が起き、骨を溶かすことがあります。
根管治療は、虫歯が神経に達した場合に行われる治療ですが、根管治療が不十分であり、細菌がしっかり取り除かれていない場合に、根管内に取り残された細菌が原因で歯根先端の組織内で炎症が発生することが良くあります。
一般的な保険診療の根管治療の場合、約70%の歯にこのような再感染が起きます。
須田英明教授(東京医科歯科大学)は、2011年に「わが国における歯内療法の現状と課題」という論文を発表し、過去に根管治療を受けた歯の50~74%に病変が認められました。
これは、日本の根管治療の成功率が26~50%程度であることを示唆しています
再感染が起こると、歯根先端の組織内に膿が溜まり、サイナストラクトが形成されることがあります。
4.歯根の折れ・ヒビ(歯根破折)
歯の根が折れたり、ヒビが入った場合もサイナストラクトができる原因になります。
歯根にヒビが入ると、そこから細菌が侵入し、ヒビの入った部位の周囲の歯周組織に炎症を起こすことが多くあります。
その結果、その部位で膿が溜まり、サイナストラクトが発生することがあります。
歯根破折は、咬み合わせの不正や強い衝撃、歯ぎしりなどが原因で起こることが多いですが、不適切な歯の治療や治療の繰り返しにより、残されたご自身の歯が削られすぎて薄くなってしまった場合にも多く発生します。
痛くない場合は潰して大丈夫?自然に治る?
サイナストラクトが痛みを伴わない場合、一見放置しても大丈夫そうに思えるかもしれません。
しかし、サイナストラクトは歯周組織内にできた膿を排出するために歯茎にできている排膿路であり、根本的な原因は歯の内部や歯周組織にあります。
サイナストラクトが膨らんでいる時に、それを潰すことで一時的に膿が出て症状が軽減することもありますが、それは根本治療にはなりません。
サイナストラクトは自然に治ることがないため、原因となっている歯の治療を行わなければ歯周組織内で起きている炎症が悪化していく可能性が非常に高いです。
したがって、サイナストラクトができた場合には歯科医院で適切な治療を受けることが重要です。
サイナストラクトの治療方法

サイナストラクトの治療方法は、その原因や症状の程度によって異なりますが、一般的な治療法を2つご紹介します。
1.歯の根の治療(根管治療)
サイナストラクトの原因が虫歯が進行して歯の神経が感染している場合や、根管治療後の再感染の場合、根管治療が行われます。
根管治療は、歯(根管)内の感染を取り除き、根の先まで綺麗に洗浄・消毒した上で、薬を詰めて密閉する治療法です。
根管治療は、数回に分けて行われることが多く、治療後はクラウン(被せ物)などで歯を補強することが一般的です。
適切な根管治療を行うことで、サイナストラクトの原因が解消され、再発を防ぐことができます。
2.歯根端切除術
根管治療で治療が難しい場合や、再感染が繰り返される場合には、歯根端切除術が選択されることがあります。
歯根端切除術は、根管治療がうまくいかなかった場合や、特殊な形状の歯根を持つ歯に対して行われる治療法で、この治療法では、歯肉を切開し、歯の根の先端部分を外科的に切除し、周囲を洗浄・消毒してから縫合します。
3.歯周病治療
まず、歯周病の原因を取り除くことが重要です。具体的な治療は以下のような手順で行われます。
スケーリングとルートプレーニング
歯周ポケット内の細菌や歯石を取り除き、根面を滑らかにします。これにより、感染の進行を食い止めます。
抗生物質の投与
細菌感染をコントロールするために、局所または全身的に抗生物質を使用する場合があります。
歯周外科手術
歯周ポケットが深い場合、フラップ手術や骨移植、軟組織再生を行うことが考えられます。
治療後は、歯周病が再発しないように、定期的なメンテナンスと口腔ケアが重要です、特に上顎洞(じょうがくどう)への感染の再発を防ぐために、適切な衛生管理とフォローアップが必要です。
4.抜歯処置
歯の根が折れたり、ヒビが入った場合、それを修復することは非常に難しく、サイナストラクトが消失することは無く病状は悪化していきます。
そのような場合には抜歯をして次の治療を考えることもあります。
サイナストラクトでお悩みの場合は甲府市の「山浦歯科医院」
歯茎にできたサイナストラクトは、早期に適切な治療を受けることが大切です。
サイナストラクトは放置すると症状が悪化し、周囲の骨を溶かしたり、重度の場合は抜歯が必要になったりすることがあります。
サイナストラクトは口内炎とは異なる症状であり、適切な治療が必要となりますので、自己判断せずに、専門医の診断を受けることをお勧めします。
甲府市の山浦歯科医院では、患者様一人ひとりの症状に合わせた治療法を提案いたしますので、山梨県周辺の方でお悩みの方はぜひお気軽にお問い合わせください。