歯医者に行くと怒られる?歯医者が怖い・歯科恐怖症の方の対処法を現役歯科医師が解説
- 山浦 泰明
- 2025年11月29日
- 読了時間: 10分

「虫歯を長年放置してしまった。今さら行ったら先生に怒られるんじゃないか……」
「口の中を見せるのが恥ずかしい。呆れられるのが怖くて予約の電話ができない」
決して少なくありません。実は、日本人の約30〜40%の方が歯科治療に対して何らかの恐怖心を持っており、そのうち5〜10%の方は治療を受けられないほど強い不安を感じているといわれています。
歯科恐怖症は決して恥ずかしいことではなく、誰にでも起こりうる自然な感情です。
しかし、放置すると虫歯や歯周病が悪化し、さらに治療が困難になるという悪循環に陥ってしまいます。
この記事では、山梨県甲府市の山浦歯科医院の院長が、現役歯科医師の視点から、歯科恐怖症の原因や症状、そして克服するための具体的な対処法について詳しく解説します。
歯科恐怖症とは?
歯科恐怖症とは、歯科治療や歯科医院に対して過度な恐怖や不安を感じ、日常生活に支障をきたすほどの症状を指します。
単なる「歯医者が苦手」という感情を超えて、歯科医院に行くこと自体が困難になり、必要な治療を受けられなくなってしまう状態です。
世界保健機関(WHO)の国際疾病分類では、歯科恐怖症は「恐怖性不安障害」の一つとして位置づけられており、高所恐怖症や閉所恐怖症と同様に、特定の状況において極度の不安や恐怖を感じる病気として認識されています。
全国でおよそ500万人、つまり約20人に1人が歯科恐怖症に悩んでいるといわれ、特に女性や20〜40代の方に多い傾向があります。
歯科恐怖症の主な症状
歯科恐怖症の症状は人によって異なりますが、大きく分けて精神的症状と身体的症状の2つがあります。
精神的な症状
精神的症状は、歯科恐怖症の特徴的な現れ方です。
以下のような症状に心当たりがある方は、歯科恐怖症の可能性があります。
歯科治療のことを考えるだけで強い不安や恐怖を感じる
予約の電話をかけることすら難しい
予約を取っても直前にキャンセルしてしまう
治療日が近づくと憂鬱になり、無意識に避けたくなる
過去の嫌な歯科治療経験がフラッシュバックする
治療中にパニック発作を起こすことがある
これらの症状は、過去のトラウマや治療への強い不安から生じるものです。
患者様本人でさえ、なぜここまで恐怖を感じるのか理由がはっきりしない場合もあります。
身体的な症状
心理的なストレスは、体にも反応として現れることがあります。
以下は歯科恐怖症に伴う身体的症状の例です。
激しい動悸や息切れ
大量の発汗
手足の震え
めまいや立ちくらみ
吐き気や嘔吐
過呼吸
筋肉の緊張やこわばり
頭痛
診察台に座れない、または一定時間座っていられない
治療中に意識を失う
重症の場合、歯科医院のドアを開けようとした瞬間や、診療室に入っただけで体が拒否反応を示すこともあります。
これらの症状は決して大げさなものではなく、本人にとっては非常につらい体験なのです。
歯医者が怖いと感じる主な原因
歯科恐怖症になる原因は多岐にわたりますが、ほとんどの場合、過去の経験が大きく影響しています。
治療の痛み
歯科治療で最も多くの方が不安に感じるのが「痛み」です。子どもの頃に痛い治療を受けた経験や、麻酔の注射が苦手という方は多くいらっしゃいます。
虫歯が進行していると治療回数も増えるため、「何度も痛い思いをするのではないか」という不安から歯科医院を避けてしまう方もいます。
しかし、現代の歯科治療は技術が大きく進歩しており、痛みを最小限に抑えた治療が可能になっています。
表面麻酔や極細の注射針、電動麻酔器の使用など、麻酔時の痛みを軽減する工夫が広く行われています。
独特な音や匂いへの苦手意識
歯科医院特有の消毒液の匂いや、歯を削る機械の「キーン」という音に苦手意識を持つ方も少なくありません。
これらの感覚的な刺激が、歯科医院への足を遠のかせる要因となっています。
近年では、空気清浄機を導入して匂いを軽減したり、音の少ない器具を使用する歯科医院も増えています。
事前に医院に問い合わせたり、治療中に音楽を聴くなどの対策も有効です。
歯科医師とのコミュニケーション不足
治療内容の説明がない、質問に答えてもらえない、虫歯が多いことを責められたなど、歯科医師との対話がうまくいかなかった経験も恐怖症の原因になります。
「虫歯だらけで怒られるのではないか」
「治療してもらえないのではないか」
という不安を抱えている方も少なくありません。
しかし、多くの歯科医師は患者様の口内状態について責めたり怒ったりすることはありません。
むしろ、勇気を出して来院してくださったことに感謝し、どのように治療を進めていくかを一緒に考えたいと思っています。
幼少期の教育や周囲の影響
「甘いものばかり食べていると歯医者でドリルで削られるよ!」
「悪いことをしたら歯医者に連れて行くよ!」
といった親の言葉が、歯科医院を罰則を与えるようなところとして認識させてしまうこともあります。
また、家族や友人から歯科治療の怖い話を聞いたり、テレビや映画で歯医者が恐ろしい場所として描かれているのを見たりすることで、実際に治療を受けたことがなくても恐怖心を抱いてしまう場合があります。
歯科恐怖症を放置するリスク
とはいえ、「怖いから」という理由で歯科医院への通院を避け続けると、実際に歯にさまざまな問題が生じてきます。
口腔内の健康悪化
虫歯や歯周病は自然に治ることはありません。
放置すればするほど症状は悪化し、虫歯が多発したり、歯周病が進行したりします。最終的には歯を失うことにもつながります。
また、虫歯が悪化すればするほど、治療の回数や期間、費用も増加します。
初期の虫歯であれば簡単な詰め物で済んだものが、重症化すると神経の治療やかぶせ物、さらには抜歯が必要になることもあるのです。
全身の健康への影響
虫歯や歯周病の菌が血流に乗って全身に広がると、心臓病、糖尿病、脳梗塞、誤嚥(ごえん)性肺炎など、全身の病気に影響を与えることが知られています。
歯の健康は、体の健康とも深く関係しているのです。
社会生活への支障
「虫歯だらけで人に見せられない」「口臭が気になる」「笑うのが恥ずかしい」といったコンプレックスがあると、人前で話すことや外出そのものが億劫になることがあります。
自信の喪失や社会的な孤立につながる可能性もあるのです。

歯科恐怖症の克服方法
歯科恐怖症は適切な対処を行うことで、少しずつ克服していくことができます。
ここでは症状の程度に応じた克服方法をご紹介します。
軽度の場合の対処法
歯医者に行くことに少し不安を感じる程度の軽度の場合は、以下の方法が効果的です。
深呼吸(腹式呼吸)
深い呼吸は心拍数を落ち着かせ、緊張を和らげる効果があります。
鼻からゆっくり息を吸い、お腹を膨らませ、口からゆっくり吐き出す腹式呼吸を、歯医者に行く前や不安を感じた時に実践してみましょう。
ポイントは、ゆっくりとした呼吸を意識することです。
マッサージ 肩や首、こめかみなどを優しくマッサージすることで、体の緊張をほぐすことができます。
アロマオイルを使用すると、さらにリラックス効果が高まります。
イメージトレーニング
治療前に、リラックスした状態で治療を無事に終える自分の姿をイメージすることも効果的です。ポジティブなイメージを持つことで、実際の治療時の不安が軽減されることがあります。
中度の場合の対処法
歯医者の音やにおい、治療器具などに強い恐怖を感じ、通院をためらってしまう中度の場合は、より積極的なアプローチが必要です。
信頼できる歯科医院を見つける
歯科恐怖症に理解のある歯科医院を選ぶことは非常に重要です。
以下のポイントを参考に、自分に合った歯科医院を探してみましょう。
初診時にカウンセリングの時間をしっかり取ってくれる
治療内容や痛みについて丁寧に説明してくれる
患者の不安や希望をじっくり聞いてくれる
痛みに配慮した治療を行っている
個室の診療室がある
予約時の電話対応が丁寧
事前に電話で相談したり、口コミサイトを参考にしたりして、患者様の気持ちを尊重してくれる歯科医院を選びましょう。
正直に不安を伝える
初診時のカウンセリングで、「怖い」「不安」「痛みが苦手」といった思いを遠慮せずに歯科医師に伝えてください。
歯科医師やスタッフは、事前に申告してもらえるほど適切な対応がしやすくなります。
例えば、治療前の説明を詳しくする、麻酔の段階で十分に時間をかける、痛みへの配慮を強化するなど、個々の不安に合わせた対応をしてもらえることが多いのです。
重度の場合の対処法
診察台に座ることすらできない、パニック発作を起こすなど、重度の歯科恐怖症の場合は、専門的な治療法が必要です。
静脈内鎮静法
静脈内鎮静法とは、点滴から抗不安薬や鎮静薬を投与し、うとうとと眠っているようなリラックスした状態で治療を受ける方法です。
意識は完全にはなくならず、呼びかけに応じることもできますが、治療中の記憶はほとんど残りません。
この方法には健忘効果があり、「気がついたら治療が終わっていた」という感覚になるため、治療のストレスや恐怖と向き合うことなく治療を終えることができます。
歯科恐怖症の方が静脈内鎮静法を受ける場合、条件によっては保険適用となることもあります。
静脈内鎮静法は、以下のような方に特に有効です。
歯科恐怖症が重度の方
パニック障害をお持ちの方
嘔吐反射(口の中に器具が入るとオエッとなってしまう)が極端に強い方
過去の歯科治療でトラウマがある方
長時間の治療が必要な方
治療を担当する歯科医師と、専門の歯科麻酔医が協力して全身管理を行いますので、安全に治療を受けていただけます。
全身麻酔
静脈内鎮静法でも対応が難しい場合は、全身麻酔を使用することもあります。
全身麻酔では完全に意識がなくなるため、恐怖心や痛みを全く感じることなく治療を受けられます。
歯科医院側の痛みへの配慮
現代の歯科医療は、患者様の痛みや不安を最小限に抑えるためのさまざまな工夫を行っています。
項目 | 内容 |
表面麻酔 | 注射の前にゼリー状の麻酔薬を歯茎に塗ることで、注射針を刺すチクッとした痛みを和らげます。 |
極細針の使用 | 約0.26mmという非常に細い針を使用することで、刺す際の痛みを大幅に軽減できます。 |
電動麻酔注射器 | 一定の速度でゆっくりと麻酔液を注入することで、圧力による痛みや不快感を最小限に抑えます。 |
笑気吸入鎮静法 | 鼻から笑気ガス(亜酸化窒素)を吸入することで、リラックスした状態になり、痛みや恐怖心を感じにくくなります。 |
個室診療室 | プライバシーが守られ、周囲の音や視線を気にせず治療に集中できる個室の診療室を設ける歯科医院が増えています。 |
空気清浄機やアロマ | 歯科医院独特のにおいを軽減するために、空気清浄機やアロマディフューザーを導入している医院もあります。 |
音への配慮 | 音の少ない治療機器を使用したり、イヤホンで音楽を聴いてもらうなど、音によるストレスを減らす工夫を行っています。 |
山梨県甲府市の「山浦歯科医院」の取り組み
歯科恐怖症は決して珍しい症状ではなく、多くの方が同じ悩みを抱えています。
「歯医者が怖い」と感じることは恥ずかしいことではありません。
その気持ちを正直に歯科医師に伝えることが、克服への第一歩となります。
山梨県甲府市にある山浦歯科医院では、歯科恐怖症の患者様にも安心して治療を受けていただけるよう、さまざまな配慮を行っております。
初診時には十分な時間をかけてカウンセリングを行い、患者様の不安やご希望を丁寧にお伺いします。
治療内容については、わかりやすい言葉で丁寧に説明し、患者様が納得された上で治療を進めてまいります。
また、痛みを最小限に抑える麻酔技術の導入や、リラックスできる診療環境の整備にも力を入れていますので、どうぞお気軽にご相談ください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。個々の症状や治療については必ず歯科医師に相談し、適切な診断や治療を受けてください。
参考文献
日本歯科医師会「歯科恐怖症について」
厚生労働省「医療広告ガイドライン」
